イヴイヴの夜
明後日10月9日はジョン・レノンの80回目の誕生日、昭和な言葉で言うならば今宵はイヴイヴです。
キンモクセイ香る夜の庭にて、ジョン、たまたまですけど、この世であなたと同じ時間を過ごせたことをとても幸運に思っています。あなたが天国へ旅立つ数ヶ月前の『プレイボーイインタビュー』を読み、ぼくは主夫、ハウスハズバンドに憧れ、後年それを実現させました。そして店の一軒を『レノンの庭』と名付けて、毎朝イマジンを流しながら庭を手入れし、おかげで盛況を博すことができました。店は契約満了で閉めてしまいましたが、今もその頃のお客様から手入れや二度目のガーデンリフォームなどのご依頼をいただいて、素敵なお付き合いが続いています。
その他の日常においても、多分あなたのことが脳内に浮かばなかった日はありません。あの日から1日も欠かさず、あなたからの「想像してごらん」という啓示に従い、想像を創造に変えることで暮らしの糧を得てきました。
こんなふうに中高年男子が誰かに心酔することのみっともなさは知っています。そういうのが嫌いで、心酔するなら自分に、と思っていますが、でもあなたとのことは中学生から始まったことなので話は別、言うならば信者みたいなものです。それがぼくだけでないことはポールのコンサートに行くたびに感じていました。武道館やドームに集う人たちはポールの隣りにあなたを見ていた、だからみんな、ポールに熱狂しつつ、挟み込まれるビートルズの曲にはクシャクシャの顔で涙したのです。
ジョン、あなたが辿った道も歩いてみました。鎌倉小町通りの喫茶店、軽井沢の万平ホテルにも。繰り返します、同じ時空にいられたことを感謝します。おかげで大いに悩み、大いに苦しみ、そして大いに感動することができたことを、あらためて。それと今宵のイヴイヴに、こうして漂う花の香りのように濃密な庭時間を得られていることも。
あなたによる「想像してごらん」というフレーズが、その後どれだけ多くの人の命を救ったことでしょう。未だ戦争も紛争もなくなっていないし、精神を病んだ者たちが引き金を引き続けてはいます。でも、それでも、もしあなたがいなかったら、あなたがヨーコと紡いだメロディーと詩がなかったら、もしかしたら人類は呆気なく終わっていたかもしれません。あるいは悲しいカウントダウンの秒針がグルグルと速回りしていたことでしょう。そんな気がするのです。
想像してごらん・・・聖ジョン・レノン、あなたが示してくださったもうひとつの大切なこと、「愛と平和」についてぼくはあまりリアルに、切実には考えてこなかった気がしています。それを二の次の、まるで祝詞や呪文のようにして、ただただ想像し創造する快楽に浸って過ごしてしまったのだと思います。おかげで「俺たちならジョンとヨーコを越えられる気がする」と告げて暮らし始めた最愛の女性との関係は、まあ、世間的には上々であるものの、あなたたちの足元にも及ばない有り様でして、ジョン、お恥ずかしいやら情けないやらの体たらくであることを、今宵は素直に懺悔いたします。
やり直せるならやり直したい、もしあなたがそのチャンスと時間を与えてくださるなら、ですが。双六を振り出しに戻して、もう一度ダイスを転がすように彼女にかけてみたいのです。ちょいと冷え込んできた庭の夜風にこの曲を乗せますので、どうかその人と、連れ合いとの恋にはぐれて彷徨っている、地球上の全てのヨーコ達のもとまで運んでくださいますように。大天使にお願い事をするなど恐縮ですが、どうか今宵は。
『 もういっかい最初から(みたいな)』
ここまで 寄り道ばかりだったような気もする
君のせいでも僕のせいでもなく
時間はあっという間に過ぎてしまうんだね
今こうして君を見つめてみると
僕ら もう一度恋に落ちてみてもいいんじゃないかって
まるで最初から描くみたいに 真っ新なカンヴァスに
間違いなく愛し合っていたよね 毎日
ここから先もやさしく 心地よく愛し合って行こうよ
もう一度翼を広げて羽ばたいてみようじゃないか
僕らならもっと高みへと行けるんだからさ my love
それはまるで真っ新なカンヴァスに描くみたいな
だめ? だったら僕だけで飛び立つよ
遥か遠くへ どこまでも遠くへ
お互いにキチッとひとりになった時に再び出会える
そう確信しているんだ あの時と同じくね
そうさ そうに決まっているよ darling
ここまで 寄り道ばかりだったような気もする
君のせいでも僕のせいでもなく
時間はあっという間に過ぎてしまうんだね
今こうして君を見つめてみると
僕ら もう一度恋に落ちてみてもいいんじゃないかって
まるで最初から描くみたいに 真っ新なカンヴァスに
間違いなく愛し合っていたよね 毎日
ここから先もやさしく 心地よく愛し合って行こうよ
もう一度翼を広げて羽ばたいてみようじゃないか
僕らならもっと高みへと行けるんだからさ my love
それはまるで真っ新なカンヴァスに描くみたいな
僕らが共にしてきた時間はかけがえのないものだ
その時間で成長し 大人になった
これはスペシャルだよ 毎日がスペシャルだった
でも冒険してみようじゃないか ふたりきりでもっと高みへ
新しく始めてみようよ
きっと空の上からお見通しでしょうけど、ポールは今もジョン&ポールの名曲を歌い続け、あなたの代わりに『 Give Peace A Chance 』と叫んでいますよ。
どうかもう少し、いやいやできるだけ長くポールをお守りください。わがままに過ぎますが、ぼくが息をしている間は。最愛の人ともう一度彼のコンサートに行きたいのですよ。ジョン、あなたに、最後にもう一度会うために。
P.S. 明日も全力で、Love & Peace に満ちた庭を思い描きます。