ピエールの憂鬱
追肥が効いたようで、ぽつぽつと咲き続けるルージュピエールドロンサール。
ピエール・ド・ロンサールがフランスの詩人の名であることは知っていたものの、はたしてどんな作品があるのかと思い立ち Google 検索。いくつか出てきましたが、う〜ん、毎度のことながらフランス系の訳は難解で一読では意味不明。おまけに一編の詩に対してその何倍もの解説付きというものが多く、そんなに説明を添えなければ理解できない詩っていったい・・・と思ってしまうのでした。なんでフランス文学者というのはこうやって、バラの専門書みたいに面倒な言い回しをする癖があるのでしょう。というわけで、夜の庭にて、ロンサールの代表作と言われる「カッサンドルへのオード」の翻訳と解説をいくつか解読し、超訳的に意訳してみました。
Intoroduction
二十歳のロンサールは、招かれた舞踏会で歌う15歳のカッサンドルに心を奪われます。しかし聖職にあったロンサールに、少女と結ばれることなど叶わぬ夢のまた夢。翌年カッサンドルは近隣の貴族と結婚してしまいました、とさ。
カッサンドルへ贈る詩
愛おしい人よ 庭を見に行こう
朝には光を受けて 緋色に輝く衣を広げていたあの薔薇が
この夕暮れ時に 君の頬に似た紅色を失っていないことを確かめに
ああなんということか ほんの少しの間に
ああ可愛い人よ 無残にも地面に散ってしまった
自然の意地悪さはいかばかりか
これほど美しい花でさえ 朝から夕まで命を永らえないとは
だから伝えておきたい 新緑の葉の中で咲く時に
咲けよ 咲けよ 君の若さを
老いの悪魔がやって来て その輝きを奪うまでは
もっとラフに訳せば「ほっといても美しい一瞬を、せいぜい謳歌するがいいぜ」という、フラレ気分で Rock'n' Roll のような。古今東西、花の命は短くて、苦しきことのみ多かりき。いのち短し恋せよ乙女、紅き唇あせぬ間に、明日の月日はないものを。ふむふむ、さもありなん。バラの場合も難解にして憂鬱な解説など読まないほうがいいと思うんですよね。それよりもとにかく植えてみる。うまく育てばうれしいし、庭においては失敗もまた楽しい出来事なのですから。
実を申せば、今年、わが家のピエールは、あのいだてん足袋屋のピエールと同じくどん底の不調でした。原因は心当たりがございます。とてもトホホなものなので女房に内緒にしていたその原因とは、根元がミーのトイレになっていたのです。うちの詩人にして哲学者猫はなぜかその場所を気に入ってしまい、昨年末から穴を掘っては用を足し、丁寧に土をかけて復旧するという繰り返し。まあこれも自然なことですし、天然肥料が吉と出るか凶と出るかということにも興味があったのでそのままにしていました。結果、思いっきり凶と出たので、これから土を入れ替え、株を柵で囲うか、立ち入れないように頑丈な下草を繁らせようと思います。
「詩の王子」と称されたフランスルネサンス期の偉大なる詩人の名を冠する花に、なんという無礼をしてしまったのかと思いつつも、花、猫、犬、野鳥、昆虫、土の中の微生物など、庭の登場人物たちが繰り広げる営みに興味が尽きず。されどまたあの感動的な花を見たいので、さっそく手段を講じて、さて、来春の開花はどうなりますやら。
Cher Monsieur Pierre.
季節を越えた、再会の日を楽しみにしています。
バラを始めてみようかなと、というあなた、専門書を読んでいても花は咲きませんから、知識よりも好奇心を優先さえてくださいね。ピエール・ド・ロンサール、アイスバーグ、アンジェラなどがおすすめです。
そうそう、ますはバラの庭の感動を味わってから。『横花ガーデンデザイン!幸せな庭のレシピ』にあるブログ内検索に「後藤さん」と入れてみてください。