性根の問題
梅雨明けから昨日までの1週間、猛暑日が続きました。今日は一息つけるようで、外に出たら雲がかかっており、夜明け直後にサーッと雨雲が行き、焼けたアスファルトを冷ます、あの独特の香りが立ち昇る中、家から徒歩3分離れている駐車場へ向かいました。湿気、薄曇り、これが通常の梅雨空なんですよね。気象庁の便宜上梅雨明け宣言はあったものの、そんなことに惑わされることなく7月のこの気候と歩調を合わせて進みましょう。
作業場に到着したら、ストックしてある草花と庭木の鉢植えの多くが、この1週間の灼熱で葉っぱを枯らしていました。しかしこれは水分不足を察知し、蒸発をセーブするために自らの光合成器官を切り離すという防御作用であって、健康の証し。だから全体が枯れる心配はありません。逆に、冴えない色の葉っぱを枯らさずに耐えている植物が危ないのです。自分の姿を変化させないままにただ踏ん張っている草木は、限界を超えたところでコロッと、あっけなく枯れてしまいます。
枯れ始めた植物にはいくら水をかけても手遅れで 、みるみる色を失い干からびてゆく。それを引っこ抜くのはとても簡単で、つまり根っこが伸びていない。ふむふむそうか、やっぱりね。健康は根っこ次第なんですよ。クリシェ「何にも咲かない冬の日は・・・」というのがありますけど、本当にそれは大事なことで、地上部が盛大に花咲く日を思い描きながら、日常配慮すべきは地上部よりも地下の世界で地道に命をたぎらせている根の生育を応援する手入れ。
根を健康に育てるためには、植え付け時に最初のポイントがあります。ポットの形に外周を覆っている根を何ヶ所か切り、硬くなっている土を軽くほぐしてから植えてください。これは根を刺激し発根を促すのと、ポットの土を植え付け先の土に馴染ませるため。植えたら幹の周辺の土を押して倒れないようにしてからたっぷりと水をあげます。この最初の水やりは水分補給ではなく、土中に隙間ができないようにするためなのでしっかりと大量に、溜水を指でかき回して泥水にするといいでしょう。
植替え後の数日間は土が乾かないようにこまめに水をやります。よく観察し、新芽が出て来たら、それは根っこが馴染んだ証拠なので、毎日やっていた水やりの間隔を一日置き、三日に一度、週一、と開けてゆき、土が乾いて葉っぱがへたったらたっぷりあげるようにシフトを変えてゆきます。いつも手が届くところに水分がある甘やかし状態では、根は伸びる理由がない。やや過酷に水不足を演出しながら育てるのです。ここで大事なのが、目を掛けるということ。間を開け過ぎれば当然枯れてしまうわけで、水やりをしない日でも目をかること。朝晩、その表情を観察する。自然と植物との会話が成立するようになる。実はこれがガーデニングの本質的なお楽しみなのです。
天気図には台風の種がぽつりぽつり。いいぞいいぞ、暴風雨が来てきてくれれば渇水で枯れた葉っぱが吹き飛ばされて、全身を洗われた草花は再びフレッシュな姿となる。本当によくできたシステムです。つまり植物はお天道様と呼応し、季節と並走しながら健康を保っているんだよなあと、そんな感慨もまた、ガーデニングのお楽しみ。こないだご近所トラブルの相談で、風変わりに神経質で、外壁を防犯カメラと奇妙な張り紙だらけにして、隣近所にクレームをつけては嫌な気分にさせている人のことを伺いました。
どの町内にも一人くらいいますよね、そういう困った人物が。で、その困ったちゃんは、枯れ葉がどうの枝がどうのと、我が家は町内の植物によって物凄い被害を受けているのだと主張しているそうで、他には犬を吠えさせるな、玄関前に物を置くな(風で飛んできたらどうするんだ、という言い分だそうな)、テレビがうるさい、空き屋にたぬきが住み着いているから犬を散歩させて刺激せぬように、などなど。いやはや。持ち込まれた相談内容は植物に関することでしたから、クライアントに対するマーロウやホームズの如き対応で、お隣に出っぱらない剪定方法の伝授と目隠しフェンスを提案しました。
面白いというか、興味深かったのは、その困ったちゃんは折々に「私は植物が大っ嫌いなんだ」と話すそうで、それは人それぞれなんだから正当なのである、という主張をしているとのこと。さて、あなたはどう思います?犬が嫌い、猫が嫌いならまあまあ頷けますが、草木が嫌いって・・・上手に病院へ連れて行ける人が現れるといいんですけどねえと相談者に言うと、それなんですよそれ、本来は奥様がその役なんだと思うんだけど、既に疲れ切って奥さんまで変になっているんですよ。関わっても気分が悪いだけだから、ご近所ではできるだけその家を見ないようにしているんです、だそうです。
植物が嫌いって・・・。困ったちゃんに生育過程で何があったのかわかりませんが、性根が傷んでますよね。生態系とか進化学や生物学的には異端のポジション、社会的には神経症か人格障害の部類かな。きっと成長期の植替えにしくじってしまったのでしょう。かわいそうだけど、犯罪のレベルまで行かないうちに、それ以前に家庭が崩壊しないうちに、専門医に診てもらったらいいのになあと、まあ、ロシア vs ウクライナと同じく、こちとら自分の家庭に花咲かすために精一杯でかまってはいられませんが。いやあ、やっぱやばいですよ、地球上の全ての命を支えている奇跡の生命群、植物が嫌いってのは。