パンドラの箱
時代は男時から女時へと移行し、かつて男のステイタスだった庭は、今は主に、女性がイキイキと暮らすために必要とされる場所となりました。
男性諸氏に御注進。人類史的には弥生時代から、近現代史的には平成に入ってから、ダブルパンチで今はオスにとって冬の時代なのであります。 されど嘆いていても仕方なし、しょうがないじゃないですか、時代は巡るわけでして、我々のあの眩しい夏は確かにあったのですから。 こうとなったら腹をくくって凍てつく風景の情緒を味わいつつ 、やがて来る春に想いを馳せながら進みましょう。大丈夫いですよ、季節もまた巡りますから。まあ、数百年後かもしれませんがね。
創造主である神ゼウスは、ある日戯れに、部下のプロメテウスに後ろ足で歩く毛の少ない猿を作るよう指示しました。それらはすべてオスで、猿たちは争いや不幸という概念を持つことなく平安に暮らしていました。
ゼウスは命じるにあたり「プロメテウスよ、猿どもに知恵を授けても良いが、決して火を使うことを教えるのではないぞ」と言い添えていました。しかし時は折しも氷河期、プロメテウスは凍える猿たちを哀れに思い、ゼウスの言いつけに背いて火を与えてしまったのです。
猿たちは火で暖をとり、煮炊きをし、土器を焼き、やがて火の威力を武器にして争うようになりました。
危惧していた展開にゼウスは烈火のごとく怒り、プロメテウスを拷問にかけた後に天上界から追放し、いい気になって争いごとに酔いしれる猿どもに戒めの災いを与えようと、そのオスの群れにパンドラという名のメス猿を送り込んだのです。
美しさと賢さと好奇心を備えた魅惑的なパンドラに、ゼウスはひとつの箱を持たせました。「パンドラよ、決してこの箱の蓋を開いてはならぬぞ」と何度も何度も言いながら。開けてはならぬと繰り返されるのは、お笑い芸人ならずともお馴染みのネタ振りですからいつかは・・・とうとう ゼウスの忠告を破り、美しきメス猿パンドラの手によって、禁断の箱は開けられてしまったわけです。
中からは不安、苦悩、怒り、嫉妬、病、貧困、争い、その他ありとあらゆる厄災が溢れ出し、オス猿たちは阿鼻叫喚の地獄絵図。パンドラは慌てて蓋を閉じましたが時すでに遅しで、箱の中にはぽつんと「希望」だけが残されていたそうな。
ああパンドラよ、せめて箱を空っぽにしてくれたらその後のオスたちは、いくらか救われたであろうに。
オス猿の皆様、ぼくらの尽きることなき苦悩はここに起因するものなので、無駄な抵抗はやめて、この際パンドラがお気に召す暮らしを、美しく楽しい庭を提供するしか道は残されていないのであります。
時代は男時から女時へと移行し、かつて男のステイタスだった庭は、今は主に、女性がイキイキと暮らすために必要とされる場所となりました。その現実に立ち、庭は愛しき奥様へのプレゼントであると認識され得た方が得策かと。
え、そんなことはとうに気づいている。ですよね。健闘を祈ります。