数カ月前に一度ご来店されてザックリとお話を伺い、その後どうされているかなあと思っていたら再度お越し下さいました。
高橋さんのご主人は今話題の“ アスベスト ”を除去する作業を請け負う会社の社長さんです。ずいぶん早くからこの重大な環境問題に注目して、日本中の学校や公共施設のアスベスト除去に取り組んでこらた方です。元気一杯、パワー全開で仕事をしていたのですが、突然の脳梗塞、一命は取り留めましたが左の手足が動かなくなってしまったのです。
もともと先頭切って社員を引っ張っていくタイプのエネルギッシュな方なので、死にそうになり、身体が不自由になったことのショックは察するに余りあります。でもご本人も奥様の根っから明るい性格で、ご主人のリハビリと新たな生活へのチャレンジとして広いルーフバルコニー(共有部分)付きのマンションを購入されたのです。
テニスコートほどもあるバルコニーをどんな庭にしたらリハビリしつつ楽しく暮らしていけるのかをイメージしながら、いろんなところに相談や設計依頼をしてみたそうですが、どこに行ってもピタッと来ない。ご主人は、負けないぞ!という『決意』、奥様はご主人の健康と、幸せを取りかえしたいという『願い』、強くそれを持っての設計者探しだったのに、行く先々でがっかりさせられるという作業だったようです。そして数カ月前に話をした私を思い出して“ この人なら ”と思って再度来て下さったとのこと、非常にありがたくもあり、プレッシャーも感じる受付でした。
マンション購入の際に営業さんから「どんなふうに使っても、何をつくってもかまいませんから」と言われているとのことで、一般的にマンションには制約がかなりあるものなので、大丈夫かなあという不安もありつつ、ご夫妻がイメージしている庭を探り出すようにじっくりと話しを聞きながら出来上がったのが次のプランA・Bです。
Plan A
Plan B
お二人にものすごく喜んでいただいたのですが、予想的中!管理組合から強烈なクレームがありプランは白紙に・・・。
マンション購入の決め手になったのが広くて眺めのいいルーフバルコニーでした。厳密にはマンション住人の共有スペースという扱いなので、庭つくりには管理組合の承認が必要なのです。ところが購入時に営業さんからはそういったことの説明がほとんどされていなくて、しかも「何をつくってもかまいませんから、すばらしいルーフガーデンにして下さい」と言われて、夢ふくらみまくっての決断だったのです。しかし案の定、プランの承認をお願いすると管理組合(実際は販売会社が指定した管理会社ですが)からは嵐のようなダメ出しで、ご主人は「話が違うじゃないか!」とエキサイト、奥様は「そんなことなら買うんじゃなかった」と半ベソ状態でした。私も間に入ってマンション規約のレクチャーを受けたり、施工荷重だの施工方法の説明をしたりと、何度も庭実現のための席に赴いたのですが、何だかお役人のような木で鼻をくくったような対応の連続で、結局何もつくれない、つくってはいけないという結論になってしまうのです。高橋ご夫妻の思いを知っているだけにさすがに私も腹が立ってきて途中興奮してしまったりしたのですが、その後、奥様が辛抱強く交渉を重ねていくつかの制約をクリアーすれば施工してもいいという了解を取り付けたのです。
その制約の主な内容はこうです。
◇ 設置物の高さ制限
◇ 10年後の防水工事の際に全て移動可能であること
◇ 床面にボンドでの接着やアンカーボルトを打ち込んではいけない
◇ 台風でも絶対に壊れたり、設置物が飛ばないようにする
◇ バーベキュー炉などの火を使うものはつくらない
それらを踏まえつつ、高橋さんの希望を整理したのが次のプランCです。
Plan C
タカショーのeウッドシリーズで、ユニットデッキ、デッキパネル、木製プランター、パーゴラ、トレリス、それらを入念にビスで連結することで、風対策は万全ですし、防水工事の際は全て移動可能です。あとはブラッドストーン。下地に砂を敷いて外周と目地は弱めのモルタルで固めました。これもまた移動可能です。他には据え置きタイプの流し台とベンチ(収納できます)とφ800のテラコッタプランターという構成です。
これで問題解決です。後は施工するのみです。と、ここであることに気付いて軽くめまいを覚えました。この材料をすべて10階まで運び上げなければなりません。もちろんエレベーターは使えますが、それにしてもものすごい量です。時は真夏、スタッフ総出で大汗をかきましたが、上に出れば八景島からの海風が気持良くて、終わってみれば楽しい作業でした。
マンション管理会社との長いバトルの末に完成した『決意』と『思い』の空中庭園。そのビフォー・アフターです。
Before
After
Before
After
Before
After
ご主人が言っていた「いくら眺めが良くたって外に出る気がしないよ」という言葉を思い出しました。確かに人工芝の広場では全然楽しくありませんし、それどころか新生活の夢が広がりまくっていた分これがストレスになっていたであろうことが想像できます。毎日このビフォーを眺めながらどこに依頼すれば夢の庭が実現するのかと、思うように動かない足を引きずりながらあちこち出かけてはガッカリする日々。やっと気に入ったプランが出来上がったと思ったら、今度は管理会社とのバトル。いやはやほんとにご苦労様でした。
今回は設計時のマンション管理会社とのドタバタでとても勉強になりました。様々な制約をクリアーするために選んだガーデン資材が、結果的にルーフバルコニーでの庭づくりに最適なものばかりで、その後もいくつかのルーフガーデンづくりにも使いました。ここと同じようなルーフバルコニーを持ちながら手付かずになっている方には参考になると思いますので、今回使用した資材の紹介をしたいと思います。
竹澤商事株式会社 TEL 0749-73-3046 FAX 0749-73-8027
http://www.takezawa.co.jp
ブラッドストーン オールドタウン ラージサークル メローコッツ
これはイギリス生まれの人工石材で、形状、色、質感ともに非常にこだわりを感じる商品です。過去何度か使いましたが、時間の経過で風合いを増すという、人工資材では稀な、優れた品質です。
日本興業株式会社 TEL 087-894-8130 FAX 087-894-8121
http://www.nihon-kogyo.co.jp
ガーデンシンク ブリックタイプ レギュラー仕様(ODF-GS-B1)
収納付ステップ&ベンチ トランスブラウン(OPB-SB-2・TB)
どちらの製品も質感、仕上がり、機能、すばらしいものです。ただそれぞれに難点もありました。収納付ステップ&ベンチは重いフタを軽く開けられるようにダンパーが付いているのですが、台風のときに風で開いてしまい、あおられて倒れてしまったため、ダンパー部品を取り外しました。ルーフバルコニーでの使用にはそうした方がいいと思います。
ガーデンシンクの方は本体が78キロと超重いので、搬入は4人掛かりです。室内を通るときは壁や床を痛めないように、しっかりと養生をしたほうがいいでしょう。
高橋さんのルーフガーデンに使用した資材、今日はタカショーです。
タカショー e-ウッドシリーズのデッキパネル、ユニットデッキ、プランター、パーゴラで構成し、風対策で全てを金具とビスで連結しました。耐久性、風合い、施工が簡単と3拍子そろった製品だと実感しました。
e-ウッド デッキパネル(フロアータイプ)1型四角
e-ウッド プランター 180・90
e-ウッド パーゴラ(独立タイプ)
e-ウッド ユニットデッキ(ハイタイプ)1型四角
e-ウッド ユニットデッキ手摺り クロス
以上が今回使用したタカショーの製品です。将来の防水工事の際に移動可能であるというところから採用しました。とても便利でいい感じに仕上げることが出来ました。一般的な庭の設計でもよく使いますが、ルーフガーデンの設計には欠かせない、設計者には“ ありがたい製品 ”なのです。
株式会社 タカショー お客さまサービスセンター TEL-0120-51-4128
無事完成した高橋ご夫妻念願の空中庭園。その後何度か電話をいただき、手入れや金魚の水槽づくりにうかがいました。
もともとご主人は仕事もバリバリやりながら、海釣りや旅行が趣味というアクティブな方で、書斎にはお気に入りの釣り竿コレクションが並んでいました。それから木工、オーディオ、とにかく凝り性です。そのご主人のかつての趣味がランチュウの飼育で、それをこのルーフガーデンで再開したいという連絡がありました。
わたしも似たところがあって、過去から現在に至るまで多趣味で凝り性です。もう何年も前になりますが息子の優一朗が縁日ですくってきた金魚を育てようと巨大な水槽を購入し、最初は“ 水はきれいなほうがいいだろう ”ということで近所のサンクスで買ってきた大量のミネラルウォーターを入れて、金魚を全滅させてしまったことがあります。それがくやしくて息子といっしょに再度ホームセンターで金魚を購入、今度は店員さんに聞いたり本を読んだりして水づくりから始めて、ずいぶん大きくなるまで何年も育てました。それを続けるうちに、今度は水草を育てることが楽しくなって、水槽の中に水草のミニジャングルをつくったりもしました。ですからこのご主人からの相談には「それはいいですねえ」と即反応!「え~、またやるの~」と困り顔の奥様をいっしょに説得して水槽や濾過機や水中ヒーターなどを買い揃えてセットしました。
もんのすごく楽しいみたいです。その後水槽はさらに大きいものに代替わりして、ランチュウもスクスクと巨大に成長しています。
この笑顔は完成直後の撮影です。「ほんとによかった」とお客さまも私たちも安堵と満足の庭づくりでした。
高橋邸の空中庭園完成祝賀パーティーです。工事を担当した我がチームのスタッフと職人さん、高橋さんのお友達も駆け付けて「荷揚げが暑くてたいへんだったね~」「いい場所が出来てよかったね~」と昼間からどっぷりと日が落ちて八景島からの夜風が心地よくなるまで飲んで食べてしゃべってと、最高に楽しい時間を過ごさせていただきました。
奥様曰く「不思議よねえ、外で食事をすると話が尽きなくて。こないだも夜中までお友達とお酒を飲んでたのよ」。全くその通りで、他のお庭でもバーベキュー炉をつくったお宅では同じことをおっしゃっていました。
ご主人は毎朝薄暗いうちから外に出て水やりをしたり金魚の世話をしたりしているそうです。そのせいか植物の生育も良好で、どんどん咲く花に奥様も大喜びです。「こういう暮らしがしたかったの。この庭があるとどこにも遊びに行く必要がないくらい楽しい」そんな言葉とご主人の笑顔が、大事な宝物として心に刻み込まれた仕事でした。
その後かつてのご主人の趣味だった“ 木工 ”に火がついて、ウッドデッキの上は町工場のように工具や作業台が並んで『高橋木工所』になっています。ご来店下さったときとは全く別人のように日に焼けてたくましい風貌になりました。リハビリ中の左半身の具合を聞くと「駄目だよポンコツで、動きゃしないよ」とビッグスマイルの、いい感じのおやじさんになっています。妻カオリちゃんといっしょに、時々おじゃましてはそのパワーを頂戴しています。