静かでのどかな高台の住宅地、野七里の一番奥で、隣りは公園、すぐ近くに見える雑木林は鎌倉の自然保護区につながっているといううらやましい場所です。そこに広々とした二世帯住宅を建てられた本間さん、最初は若夫婦のご主人からの依頼でした。生け垣や庭木を多用したセミオープンのプランと、オープンな芝生の前庭プランの二つをつくりました。
Plan A
Plan B
これを元にご家族で検討していただき、その後何度か打合せをしていくうちに、もの静かであまり前面に出てこられなかったお父様から「こういうふうにしたいんだ」と色鉛筆で丁寧に仕上げたお父様作の図面が出てきました。ブロックとフェンスを使ったオーソドックスな外構で、それを拝見したときに「何て野七里らしい、普通な幸福感に満ちているんだろう」と目が覚める感じで、私のプランが“滑っていた”ことを恥ずかしく思いました。こちらの設計上の理屈や提案などよりも、自分と家族の生活を「こんなふうにしたいんだ」というお父様の気持ちの方がはるかに大きいのだと感じたのです。そしてすぐに軌道修正。その、お父様のプランを元にして仕上げたのがこれです。
Plan C
植栽はじっくり考えて徐々に植えていきたいということで、この時点では入れていません。
外構工事を終えてしばらくすると、お父様から、今度は庭と植栽のイメージを描いたラフプランが示され、それを微調整して造園工事もやらせていただき、結果、とても野七里らしい、本間さんご一家らしい、ナチュラルな幸福感に包まれた庭と外構が出来上がりました。
お客様それぞれが守ろうとしているもの、大事に思っているイメージをカタチにすることというのは多様であり、こちらの提案をする以前に、そのあいまいな、漠然とした“感じ”を見極めなければならない。それから設計が始まるのだということを再認識でき、いい勉強になりました。
明日はビフォー・アフターです。
物静かなお父様の、新居への、家族へのイマジネーションが形になった本間邸のビフォー・アフターです。
Before
After
Before
After
ほぼお父様からいただいたスケッチどおりのイメージで出来上がりました。打合せから設計、変更、施工を通じて、寡黙な学者さんのような印象のお父様が、幸福に満ちた本間家の大黒柱=要として淡々と、静かに、力強く存在していることを感じました。一家の中心に年長者がいるという感じ、私の田舎の新潟では普通のことで、わが実家もそういうバランスを代々受け継ぎながら幸福に暮らしています。実家を離れて20年、久しぶりに味わったこの家族観に、私のルーツに共鳴するような豊かさを感じました。
明日は外構とアプローチの完成写真です。
本間邸の外構・アプローチです。
今回使用した化粧ブロックはエスビックのリブロックエイトです。最近は私自身思うところがあって化粧ブロックを使うことがめっきり減っています、というか数年間ほとんど使っていなかったので、完成現場を見に行った妻に「こういうのもつくれるんだあ、なかなかいい感じじゃない」と言われてしまいました。「まあね」とクールに答えながら、内心「リブロックは得意中の得意なんだよ~」とにんまり。
今から十数年前、住宅関係のデザイン事務所で来る日も来る日もリブロックを使った設計をしていました。モデルハウスや一般住宅の外構設計です。当時は外構の素材としては化粧ブロックが主流で、景気の波に乗って開発されたさまざまなブロックが出回っていました。数ある製品の中で、私はリブロック一辺倒、同僚に“リブロックマニア”とまで言われながらひたすら使い続けていたのです。その理由は“安くて丈夫で主張しないから”でした。素材としての主張が少ないので、デザインで主張するにはもってこいなのです。それともうひとつ、“コンクリートらしいコンクリート製品”だということ。他の化粧ブロックは着色や加工を駆使して、コンクリート以外の物に似せるという考え方の物がほとんどでした。コンクリートをいかにしてレンガに見せるか、どうやったら天然石の感じが出せるか、そういった方向での商品開発で生まれたものばかりで、その考え方に馴染めなかった。日本の風景をつくっていくべき大企業が、一生懸命に偽物をつくるということに賛同・参加したくなかったのです。そんなこと考えながら外構設計していたのですから“変わり者”だったと思うのですが、今回久しぶりにリブロックを使って、あの時の思いは間違っていなかったと思いました。あれほど種類が豊富だった商品群はこの十年で整理されて、当時安物扱いされていたリブロックが今や主力商品になっています。いい物は残るのです。
コンクリートはコンクリートの魅力を追求するべきで、あとはコンクリートが好きか嫌いかという選択にゆだねるべきなのです。コンクリートが嫌いな人のためにコンクリートを使って偽物を提供しても、今では喜ぶ人はいなくなりました。日本人の感性はここ10年間で、ほんの少しですが、確実に進化したのです。
そういえば先日展示会で、コンクリートらしいコンクリート製品に出会いました。エスビックの『そらら』です。質感、商品コンセプト、プレゼンテーション、ともに印象がよくて、今後の大きな可能性を感じました。興味のある方はエスビックのホームページで探してみて下さい。『そらら』です。
広い庭をどういうイメージで構成するか。この広さがあればウッドデッキ+テラス+バーベキューコーナー+菜園+砂場&ブランコ、それにパーゴラ、アーチと次々提案したいところなのですが、今回は“お父様のイマジネーションがつくる本間家の幸福な世界”がテーマ。当初「ゆっくり考えながら自分でつくるよ」とおっしゃっていたので、どんな庭になっていくのか先のお楽しみ、と考えていました。ところが引っ越しが片付いたら早々にお父様からイメージ図をいただき、これがまたいい感じで、シンプルな芝生と縁側の庭。それをベースに設計して出来上がったのがこれです。
このシンプルな庭でお父様は黙々と雑草取りや芝刈りをし、奥様は洗濯物を干し、お孫さんが走り回り、若夫婦がお茶を楽しむ。通りがかりに覗くたび、本間家の幸せな風景が見えます。それこそが、お父様の中に家を建てる前から出来上がっていたイメージなのでしょう。
ガーデンデザインするということは、ガーデンデザインに限らず、幸福に暮らすということは、まず幸福はシーンをイメージすること、何があろうとそのイメージが消えたりぶれたりしないように、そのイメージのシルエットを徐々にハッキリさせていくこと、そしてそのハッキリと出来上がったイメージを現実に構築していく。この一連の夢実現作業は心身共に充実していなければ無理、気力と体力がしっかりと鍛えられていることが必要とされます。本間さんのお父様はまさにそのお手本のような方、“寡黙な夢実現の達人”です。
明日はその夢世界に植えられた樹木です。
庭の施工を終えてあらためて眺めてみると、植わっている樹木がファミリーガーデン向きの楽しいものばかりでした。それぞれの特徴や魅力、管理の仕方などをじっくりと解説したいところですけど、それを始めると今日の仕事がこなせなくなってしまいますので、写真と名前を並べるだけにしておきます。
ナツミカン
ウメ
シャラノキ
ハナモモ
コニファー/エレガンテシマ・ブルーエンジェル
エゴノキ
ヤマモミジ
どれも一年を通じて家族を和ませ楽しませてくれる、そんな木ばかりです。興味のある方はネットで検索! たまには植物の勉強をするのもいいものですよ。庭木の知識が増えると散歩が楽しくなります。
明日は本間邸の最終日です。新築の庭で始まったガーデニング、まだ種類は少ないのですが、これから限りなく増えていくことを予感させる草花の写真をご覧いただきます。
外構と庭が整然と出来上がって、いよいよガーデニング生活がスタートしました。拝見していると草花を植えたり世話をしているのは主にお父様で、家族の要望を聞きつつ、毎日黙々と庭にしゃがんでいる様子です。まだスタートしたばかりなので花数は少ないのですが、一年後には確実に庭中花だらけになっているでしょう。
というのも、家族の中で男性が庭の係になると、まるで仕事をしているような勢いで花を育てるからです。そういうケースをたくさん知っています。“男のガーデニング”は“男の料理”と同じで、まずプロが使うような道具をそろえ、本を読むなどして学習し、細部にこだわり、仕事のような熱心さで、植物学者のように専門的になっていき、そしてコスト意識はゼロ。これはひとつのパターンなのです。そしてこのパターンに出会ったときにいつも思う感慨があります。そういうふうにガーデニングにはまる男性は、必ず社会的に成功している“できるタイプの男”なのです。歯科医の北村さん、弁護士の横山さん、脳神経学者の吉川さん、大学教授の中村さん、ソニーの渡辺さん、東京ガスの名古屋さん・・・。こうして思い出していると、このご主人方、感じが似ています。(いい意味で)マニアックでエネルギッシュでせっかち、皆さんそうです。それともうひとつ、どちらの奥様もいつもニコニコしているということです。
“男のガーデニング”、そう考えるとなかなか優れた趣味かもしれません。夫婦の付き合いが長くなって、疲れと馴れからどちらかが相手の押してはいけないスイッチを押してしまって破綻する。それが事件になったり、家庭の空気が凍り付いてしまったり、それから今流行りの熟年離婚。それを回避する手段として“男のガーデニング”はとても有効、そんな気がします。
世のご主人方、家庭円満のためにガーデニングにはまってみるというのはいかがでしょうか。